Research
有機・無機・ナノ空間材料を用いた環境・エネルギー応用
―持続可能な未来社会を目指して―
持続可能な未来社会を実現するためには、二酸化炭素を削減(最終的には排出ゼロ)しつつ経済活動を維持することが求められています。このことは、環境・エネルギーをどちらも優先することを意味しています。しかしながら、環境を優先する(二酸化炭素の排出削減)と、経済活動(エネルギー消費)を抑えることになり、逆に経済活動を優先すると環境に悪影響(二酸化炭素の排出増加)を与えます。つまり、両者はトレードオフの表裏一体の関係です。この問題を解決すべく、我が国では科学技術基本計画に基づく「エネルギー・環境イノベーション戦略2050(NESTI2050)」を策定し、産・学・官が一体となり取り組んでいます。
我々のグループでは、NESTI2050に立脚して、ナノ空間材料や機能性有機・無機材料を用いた環境・エネルギーへ応用し、上記のトレードオフの関係を打破することを目指しています。具体的には、ナノ物質科学・エネルギー変換科学・物性科学・計算科学・電気化学・マテリアルズインフォマテクスを基盤に、実験・理論の両面から有機太陽電池、有機・無機熱電変換デバイス、省エネデバイス、二酸化炭素の固定・有価物質変換、希少金属リサイクル、核燃料サイクル、水素燃料、環境浄化などの研究を行なっています 。
最近の成果
ナノ空間を有するプルシアンブルーを使って白金族元素を高効率に回収
~高レベル放射性廃液ガラス固化プロセス・希少金属リサイクル応用に期待~
名古屋大学工学研究科の尾上 順教授と東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所の竹下健二教授(現在特任教授)らのグループは、絵の具の材料として古くから知られているプリシアンブルー(PB:紺青)ナノ粒子が希少金属として知られているルテニウム・ロジウム・パラジウムイオンとPB骨格を構成する鉄イオンとを置換することにより、高い収着性能を有することを見出しました。
この成果は、高レベル放射性廃棄物のガラス固化プロセスの問題を解決するだけでなく、希少金属リサイクルに採用されている多段階かつ複雑な現行プロセスの改善に期待されます。 本研究成果は、2022年3月24日付国際科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。 本研究成果は、文部科学省原子力共同研究プログラム及び中部電力一般公募の支援のもとでおこなれたものです。
炭素原子60個で構成されるサッカーボール分子こと「フラーレンC60」を電極基板上に狙い通りに整列させることに成功しました。 名大大学院 理学研究科の田中健太郎教授、河野慎一郎講師、同大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所の柳井毅教授、同・齋藤雅明助教らとの共同研究によるもので、成果は米化学会刊行学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。
1次元凹凸周期構造フラーレンポリマー薄膜内の特異なナノ空間反応場を使って、二酸化炭素と水が室温で反応することを発見しました[Adv. Sustain. Sys. 5, 2000156 (2021): https://doi.org/10.1002/adsu.202000156]。気相中では、この反応は室温で起こり得ない(活性化エネルギー: 約2 eV)ことから、特異ナノ空間反応場であることが示唆されます。今後は、二酸化炭素固定および有価物質変換への応用が期待されます。
この成果は、科研費基盤B(18H01826)および科研費基盤C(19K05401)の支援のもとで行われたものです。
プレスリリース:
- 尾上 他:「レアメタルの白金族を高効率で回収 名古屋大大学院教授ら発見」毎日新聞電子版 5月27日(2022)
- J. Onoe et al.: “Recycling more precious metals from nuclear and electronic waste using the Picasso pigment, Prussian blue”, NU Research Information, May 20 (2022).
- J. Onoe et at.: “Recycling more precious metals from nuclear and electronic waste using the Picasso pigment, Prussian blue”, EurekAlert, May 18 (2022).
- 尾上(名大)・竹下(東工大)他:「ナノ空間を有するプルシアンブルーを使って白金族元素を高効率に回収 ~高レベル放射性廃液ガラス固化プロセス・希少金属リサイクル応用に期待~」、日本の研究.com(2022年4月20日掲載)
- 名大(尾上, 中谷)・阪大(北河)他:「薄膜を使って二酸化炭素と水から炭酸イオンを生成する技術、名大などが開発」, マイナビニュース(2020年10月29日掲載)
- 名大(尾上, 中谷)・阪大(北河)他:「1次元凹凸周期構造フラーレンポリマー薄膜内の特異なナノ空間反応場を使って二酸化炭素と水が室温で反応することを発見: 二酸化炭素固定・有価物質変換に期待」, 日本の研究.com(2020年11月6日掲載)
出版物
2018年 第3章「Topology-Induced Geometry and Properties of Carbon Nanomaterials」(H. Shima and J. Onoe)を共同執筆しました。
ダウンロード数:1.7 k回(2021年6月2日時点)